エリザベス・キューブラー・ロス
デーヴィッド・ケスナー著
「永遠の別れ 悲しみを癒す智恵の書」 を読んで

悲しみぬくことの力

 本書を読み進めるうちに、自分の中のささやかな喪失体験がいくつも蘇ってきた。例えば、熱心に計画していたことが理由もなく中止になってしまったことなどだ。それは親しい人を失うことに比べればとても些細なことかも知れないが、いや、些細なことだからこそ十分に体験しつくされておらずに、心の奥底に沈んでいたのだろう。「あー、僕はあの時悲しかったんだ…」と、今更ながら気が付いた。そしてその悲しみを感じる作業を通して、心の奥にわだかまっていたものが晴れるような感覚があった。自分の中にある悲しみを見つめることは、とりもなおさず自分自身を見つめるということであり、そのことが私たちに解放をもたらすのだろう。

 著者の二人は、「悲しみぬくことそのものに癒す力がある」と言う。今、私たちは「嘆き悲しむことを教える親がほとんどいなくなった」時代、愛する人を失った悲しみを安心して分かち合うことが難しくなってしまった時代に生きている。そんな中で本書は「悲しむこと」は辛い体験ではあるが、その悲しみをじゅうぶんに悲しみぬくことは人を成長させてくれる力になるのだと教えてくれる。

 キューブラー・ロスは、彼女自身の悲嘆を綴った文章の中に「わたしのように間接的な方法ではなく、本書をつうじて、読者がもっと直接的な方法を選び、安心して自己の悲嘆を癒して頂きたいと、心から願ってやまない」と書いている。彼女から私たちへの、文字通り最後のメッセージなのである。

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