耄碌爺昔噺  
 
 耄碌はしたくないですが、頭の毛が薄くなり、世の中の役に立たなくて、昔噺ばかり始めるようになるのは、やはり耄碌した証拠でありますが、この耄碌爺が今の世の中を眺めると、腹の立つ事ばかりであります。
 その鬱憤を晴らそうと云うのが、このぺージの主題であります。
 
 当年は2010年、平成22年てありますから、本年75歳となられた方で、都会に育つた方達は、トウモロコシのドンドン焼き、サトイモの茎、豆粕を食べて育つた最後の年代であり更には学童疎開で親の手元を離れ、不幸にして戦災で両親を失われ、幼くして世の辛酸を嘗め尽くされた世代の方々であり、80歳の方は勤労動員で工場でハンマーを振り、ヤスリを握り工作機械に取り組んで、軍需品増産に励み、85歳の方は兵士として、多くの方が祖国に殉じたのであります。
 戦いに敗れて戦後の復興から、日本経済の空前の発展まで、正に「粉骨砕身、奮闘努力」して、祖国の為に尽くしたのは、後期高齢者と区分され、耄碌爺とされている我々の世代なのであります。
 
 昭和と云う時代は、世相のめまぐるしく変わつた時代で、最初の25年間は、大経済恐慌で始まり、どん底の不景気があつて、7年目には戦争が始まり、軍需景気で景気が立ち直り、満州国が建国され、中国との戦争が始まり、このあたりが景気の頂点で、帝国陸海軍の戦力と、軍人の精神的優位を過信した、軍の中堅官僚が独走し、アメリカと戦い、徹底的に敗北し、国民は窮乏のどん底に突き落とされ、朝鮮戦争と云う他国の不幸で、特需景気にめぐり合つて、民間企業が潤い、労使の努力に依って、経済的に急速な立ち直りを見せましたが、そこで中核として、働いたのは我々の世代でありました。
 
 この間で政治家と官僚は何をしたかと云えば、世の成り行きに合わせた法律を作り、世の中は目の回るように変化し、わが国はどん底生活から這い上がり、経済大国になつたのでありますが、この期間に政治家と称し得る人物は、「吉田 茂」「池田勇人」「佐藤栄作」「田中角栄」程度で、無能な政治家は「片山 哲」「芦田 均」「細川護煕」その他でありました。
 
 政治家は本来、国家100年の計を立て、官僚を指揮統括して、政策を実現させる立場にあり、官僚の作った政策実行案が、政策の目的を正しく貫いて居るかどうか、確認して実行させる立場にあります。
 
 官僚の上層にある人々は、東大法科の出身であり、宣伝カーに乗って、汗と埃にまみれた選挙活動の結果、成り上がった議員諸氏とは、違うのであります。
 一般論で云うならば、超一流の大学を出なければ、高級官僚には成れませんが、議員は知名度さえ高ければ、駅弁大学でも中卒でも成れるのでありますから、その中から選ばれたり、政党の派閥の都合で浮かび上がった、「大臣」なぞは内心では、高級官僚は単に、シヤッボと云う程度にきり評価して居ないのであります。
 
 官僚の幹部は、より抜きの古狸であり、大臣は精々1年、短いと半年で首がすげ変わるのでありますから、実務に当たる官僚の眼が、実務の上司に向けられるのは極めて当然なのであります。
 
 只今の 民主党の政治家は、官僚にとつては極めて都合の良い、方々の集まりの様な気がします。
 
 どうもこの政権の下で、福祉は切り下げられ、庶民に掛かる、間接税、直接税は増えると予測されます。
 タバコが値上げになりましたが、今度は消費税で、その次は、恐らく大衆の愛飲している、安酒が値上げになると思はれますが、どんな事になるでしょうかーーー。
 
 税金なぞと云うものは、明治以降より、庶民から取り立てるのが一番早道で、直接、間接に絞り取られておりますが、今後、この傾向は更に強まり、政府財政に占める福祉の割合は狭まるばかりであります。
 
 経済的最弱者は、年金便りの後期高齢者であります。
 
 耄碌した年代は、年金を頼りに乏しい生計を立てており、色々と身体上の不具合が出ておりますので、健康保険で病院に通つております。
 年金制度と健康保険制度の財政的破たんは、すべてこの後期老齢者と総括された、年寄りの所為だと云はんばかりで、丸まった背を更に丸め、肩身の狭い思いをしておりますが、よくよく考えて見ますと、悪いのは我々では無くて、この制度を運営してきた御役人ではないかと、思うのであります。

 景気の良い時に箱モノを矢鱈に造つたり、投資に失敗したり、莫大な原資をすり減らし、それが現在の危機と称している、諸問題の大きな原因であります。
 この点に関して、官僚は過去にさかのぼつて、反省なぞは全くしないのでありまして,

 年金にしても健康保険にしても、国と国民の間で取り交わした約束であります。
 個人対個人の約束では、お互いに取り決めた事を守るのが、当たり前であつて、国と国民の約束も同じように守られて、当然でありますが、こちらの方は法律を変えて、平然と破られるのであります。
 その結果として、後期老齢者は邪魔者扱にされております。

 我々は、その若き日に国の発展の為に、全力を尽くし奮闘努力したので有りますから、本来ならばこの年齢層にある全員に対し、国は「国家再建功績賞」なぞを制定し、顕彰すべきなのであります。

 それが、今日では福祉厚生制度を食い荒らす、諸悪の根源で有るかの如き扱いを受けて居るのであります。
 
 若造のチンピラ役人が、収支が合わないから支出の引き締めをすると云う様な、法令を作り上げ、担当大臣に議会に提出させ、賛成多数で法律とし、後期高齢者に不利益を与える事なぞは論外の沙汰であります。

 政治家は100年の計を立てるものと思っていましたが、かつての厚生大臣に5年先の見通しを立てられなかった人が居ました。
 今でも恐らくそんな程度の政治家が、大臣になつているのではないでしょうかーー。
 
 政治家とも有ろう先生方には、少なくとも25年から30年のスバンでモノを考えて頂きたい。
 官僚と云う、国民の公僕もそれに力を貸してやるべきです。
 30年先には、第一次ベビーブームに生まれた人達は大体居なくなります。
 60年も先には、第二次ベビーフームの人たちも居なくなり、現在20才代の人々が、余命幾許も無い、80歳のヨタヨタ爺と、クタクタ婆になるのであります。
 当初の30年間、政治家と官僚が、特別会計やら、埋蔵金やらで、繋ぎをつける算段をして呉れれば、後は楽なのであります。
 
 何だ彼だと、後期老齢者が、ブツブツと呟き、いささか疲れて、眠くなりましたので、この項を此処で中断いたします。

 ご退屈様でした。

 

 

 

 back   Top